はじめに
君たちは、大きくなったら子どもが欲しいと思いますか? 日本の出生率は減少傾向にあり、政府は出産にかかる費用の手当をしたり、子育て支援策を講じたりなどして、子どもを産み、育てやすい社会環境を整えようとしています。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:日本_出生数と合計特殊出生率の推移_1985年以降.jpg
註)合計特殊出生率とは、人口に対して生まれた子どもの数を表す指標の一つで、その年次の15歳から49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもの。
今日は10代の皆さんに、聞いてみたいと思います。「あなたは、大きくなったら自分の子どもを産み、育てたいと思いますか?」YesでもNoでも、自分の心で正直に考えてみてください。間髪入れずにYesと思う人もいるでしょう。将来の進学や仕事のこと、その時の経済的な状況など、不確定な要素がたくさんあって、回答に困っている人もいると思います。
この記事では、行政がやっている経済的な施策などではなく、心の観点から、子どもを産み、育てたいかどうかの話をしてみようと思います。
心の観点とは
子どもを産み、育てることは、覚悟が必要です。母になる覚悟、父になる覚悟です。遊びに行きたいと思っても、生まれたばかりの赤ん坊を抱いて行ける場所は限られています。独身の友達から遊びに行こうと誘われても、全ての誘いに応えることはできなくなるでしょう。まだ勉強したいことがある時に子どもができたら、勉強よりも、目の前で泣いている赤ん坊に手を掛けるのが先だと思うでしょう。
あなたは、親としての役割を優先しないと小さな命は育たない。もちろん、自分の親の助けを借りたとしても、我が子として育てようと思うなら、親となる覚悟が必要で、生き方としては優先するものが変わってくるという現実的な話がついてきます。
それに満足できるのか、それともまだ遊んだり、勉強したり、仕事を優先したりしたいのか。どのような生き方がいいかは自分で決めるのです。しかし、みんなが家庭を持っているからとか、親に期待されているから、とかではなく心から子どもが欲しいと心から純粋に思うためには、一つの真実があります。それは、自分自身の心が愛情で満ちているということです。自分自身の心にある愛情のバケツがまだ十分に満たされていない人は、誰かに愛を捧げようとは思えないものです。(我が子を産んで寂しさを埋めたいなど、ちょっと歪んだ形はここでは問題にしません。別の機会に考えてみましょう)
愛情のバケツが満ちている人と空っぽの人と
それでは、愛情はどのようにして満ちたり、空っぽだったりするのでしょうか? 僕の経験から言えることは、親からの愛によるものです。親に愛されるとはどういうことか。それは、自分の存在を丸ごと、あるがまま認めてくれているということです。
高価なおもちゃを買い与えてくれたり、一緒にどこかに旅行に行ったり、ということは全く影響しないとは言い切りませんが、本質ではない。あなたの存在をあるがまま、そのままを認めてくれた親であれば、きっとあなたの心は愛情に満ちていて、次の生命を宿したいと思うかも知れません。一方で、そのままの存在を認めてくれなかった人は、まだ認めてもらいたい、愛されたいと欠乏感を抱いて、自分が愛されたいと思っているはずです。そういう人は、子どもを愛するよりも自分が注目を集め、愛されたいと渇望するものです。
どちらが良い悪いではない
これは、良し悪しではありません。良し悪しの評価ではなく、事実を知ることが第一です。事実を知って、そこから豊かに生きる手立てを考えることが大切です。
そのままの自分を愛されなかった、これはどういうことか? あなたの親は、あなたの気持ちを無視し、いつも「こうしなさい」「こうすべきだ」と指示命令をし、あなたの気持ちを抑圧してきた親ではないでしょうか。もちろん、我が子に良くなって欲しいと願うのが親ですから、それが教育的に良いことだと信じた結果の指示命令だとは思います。しかし、そこにないのは、子どもの気持ちを尊重し、耳を傾け、そこに共感をする姿です。
子どもの気持ちが、例えばお菓子売り場でお菓子を欲しがる気持ちでも、まずは「欲しいのね」と受け止めてやることが大切です。これは10代の君達が親になった時に、ぜひ覚えておいて欲しいと思います。昨日も買ったとか、甘いものばかり食べていると良くないという気持ちから「だめだ」と言いたいのなら、そのあとです。まずは、欲しがる子どもの気持ちをそのまま受け止めてやることが大事です。そうすれば、子どもは、自分の素直な気持ちを言っても親は怒らずに受け止めてくれると安心するのです。
そこで怒ったり、嫌な顔をしたりして、子どもの欲しいという素直な気持ちを抑圧する親は、子どもからすれば自分を受け入れてもらえていないと感じてしまいます。そういうことが積み重なると、子どもは怒られることを避けようと、自分の気持ちを言わなくなります。そして、それでもそんな親にでも、愛されたいと渇望するのが子どもです。でも、その親がありのままのあなたを受け入れてくれる日は永遠にこないでしょう。一時が万事。あなたは常に親の顔色を伺い、機嫌を伺い、親に怒られないように、親の気持ちを読み取ろうとして生きていく。自分の気持ちは無視をすることを覚える。本来親から受け取れるはずの無償の愛は永遠に与えられず、逆に親の気持ちを満足させるように生きてしまうと、あなたの心は空っぽのままです。
そういう人は、いつまで経っても満たされない心を、親の代わりに異性に求めたり、別の誰かに求めたりします。ネットで出会ったばかりの人にも求めることもあり得ます。どこまでも自分が愛されたい人は、子どもが出来ても、その関係性の構築に苦労するかも知れません。親にされたことをそのまましてしまう。反対に、親にされたことをしないと頑張るのも、やはり愛のバケツを満たされたいという欲求の裏返しだからです。
勝ち負けとか、優劣とか
少し難しい話をします。インドの哲学者、ヴァンダナ・シヴァという人は、17世紀から現代に至る近代科学の中に根付いた「自然対人間」という二元論を指摘しました。本来、人間は自然に抱かれながら、精神を育んだり、自然の恵を生活に生かしてきたものですが、二元論というのは、自然と人間を二つに分類して説明しようとする考え方です。そこでは、自然と人間は対立するものとなります。対立し、人間は自然を征服し、コントロールしようとした。そのプラスの面は、自然科学の発達と、それに伴う経済成長だと言えるでしょう。しかし、二元論は、「強い/弱い」「遅い/速い」「優/劣」などを対立するものと見せてしまいました。私たちは、その中で、強いもの、速いもの、優れているとされているものを評価しています。
「べき論」を振りかざす親は、その強い方、速い方、優れた方に子どもを入れることが子どものためだと信じているように思います。しかし、私自身がそちら側に属そうとして、いつまで経っても属しきれた手応えが持てないのは、その見方に限界があることを知らせてくれているように思います。二元論の一方に属することが大切なのではなく、人は自分の気持ちを開いて、自分の気持ちに素直に生きることが豊かに生きることだと思います。自分の気持ちに添って生きていくことは、二元論とは全く違った次元で楽しめる人生が待っています。
そういうことを直観して、子どもに気持ちを開かせ、伸び伸びと言いたいことが言え、一緒に笑いあい、涙をしたりした親子は、互いの愛情のバケツが満ち溢れているのではないでしょうか。そういう子どもは、自分もいずれ子どもを産み、育てたいと感じるはずです。
自立した一人の人間として
国は子育て支援の中で、精神の話には触れることはあまりありません。しかし、「子どものまま、まだ愛されたい大人」が増えていることも、少子化の大きな要因となっているのではないかと思います。
この記事を読んでくれている10代の君たちが、自分の生き方を振り返り、親は自分が思うように愛してくれていなかったことに不満を持ち続けていると気付いたなら、その親にこれ以上求めても仕方のないことを悟り、自らを愛し、自分の気持ちに耳を傾けてみる。一人で心もとなければ、友達や恋人に素直に話をしてみる。そのままを受け止め、愛してくれる人がいれば、その人との関係性を育むためにも、自分の全てと向き合っていく。そうしながら、自分で愛情のバケツを満たし、新しい命を渇望する気持ちになったり、次世代のために何か活動をしたい気持ちになったら、とても嬉しく思います。
愛してくれなかった親には、親なりの思いがあり、そう思うに至った背景があります。親子の血のつながりは否定できませんが、それがそのまま精神的な繋がりになると思うのは思い上がりです。親子であっても、精神的な繋がりは、生命の誕生とともにゼロから築いていく必要があるものです。それを、指示や命令で抑圧してしまった親と、あなたはどう向き合うのか。その親の背景に、自分も抱える人としての弱さがあると思えたとき、親子は上下関係から対等な関係となるはずです。人は変えられませんが、自分のものの見方は変えられます。できるだけ愛に満ちた見方が僕はいいと思います。愛は、余剰分で人を愛せます。まずは自分を大切に愛することです。
そうすれば、愛して欲しい方法で愛してくれなかっただけで、親なりに愛してくれていたことに感謝の気持ちが湧きます。そして、自分で自分を満たす方法をたくさんの人に伝えていくことで、自分の世界がより豊かになることを実感していくことでしょう。
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